譲渡

譲渡

土地・建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することにより得た所得を、譲渡所得といいます。この場合の“譲渡”とは、有償・無償を問わず、所有している資産を相手方に移転させる行為を指し、通常の売買ほか、交換・収用なども含みます。事業用の棚卸資産や、貸付金・売掛金など金銭債権の譲渡は、譲渡所得にあたりません。また、衣服・自家用車などの生活動産や、強制換価手続きによる資産の譲渡により生じた所得には、税金が課せられません。
なお、譲渡所得は、税制上のさまざまな特例を適用することができます。たとえば、マイホームの売却や買替えによって利益が出じたときには、「居住用財産の3,000万円の特別控除の特例」「軽減税率の特例」など、損失が生じたときには、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」などの特例が利用可能です。適用に際しては、それぞれの要件を満たしていることが必要になります。譲渡前にぜひ税理士事務所「ちよだ税理士法人」までご相談ください。

短期・長期譲渡所得の区分分離課税と総合課税損益通算居住用財産を譲渡した場合の特例特定の事業用資産の買替え等の特例上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の特例土地等の長期譲渡所得の1,000万円特別控除制度の創設土地等の先行取得をした場合の課税の特例の創設

短期・長期譲渡所得の区分

譲渡所得は、所有期間により短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けられます。

短期譲渡所得:資産取得日から5年以内に譲渡することで得られた所得
長期譲渡所得:所有期間が5年超の資産を譲渡して得られた所得

※土地や建物などの譲渡については、実際の譲渡日ではなく、譲渡した年の1月1日が所有期間の判定基準日になります。ご注意ください。

土地・建物譲渡における短期・長期の区分方法
土地の取得日
2009年2月1日
土地の譲渡日
2014年3月1日
所有期間
4年11か月(短期譲渡所得)

※土地や建物の場合、譲渡した年2014年の1月1日が基準日となるため、所有期間は4年11か月です。5年以下なので短期譲渡所得となります。実際の所有期間である、5年1か月とはなりません。ご注意ください。

分離課税と総合課税

譲渡所得は、譲渡資産の種類によって、分離課税と総合課税の対象になるものとに分けられ、税金が課せられます。

分離課税:譲渡所得については、事業所得や給与所得などとは別に、租税特別措置法に規定された税率に基づき課税する方法

総合課税:事業所得や給与所得などの所得と譲渡所得を合計し、累進税率によって課税する方法

税額の計算方法
(1)短期・長期譲渡所得に係る総合課税

計算方法

  • 短期譲渡所得の場合
    {譲渡価額 -(取得費用+譲渡費用)-特別控除額}=短期譲渡所得
  • 長期譲渡所得の場合
    {譲渡価額 -(取得費用+譲渡費用)-特別控除額}×1/2=長期譲渡所得

総合課税方式をとる資産を譲渡した場合、上記の計算式より譲渡所得額を算定します。その後、給与所得などと合算して課税所得金額を導き(千円未満切り捨て)、下記の該当税率を乗じて控除額を差引き、税額を算定します。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円~194万9,000円 5% 0円
195万~329万9,000円 10% 9万7,500円
330万~694万9,000円 20% 42万7,500円
695万~899万9,000円 23% 63万6,000円
900万円~1,799万9,000円 33% 153万6,000円
1,800万円以上 40% 279万6,000円
(2)短期・長期譲渡所得に係る分離課税

計算方法

譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=譲渡所得

分離課税方式をとる資産を譲渡した場合、まず長期・短期に区分し、それぞれ上記の計算式より譲渡所得額を算定します。その後、長期譲渡所得と短期譲渡所得ごとに、下記の該当税率を乗じて税額を算定します。

所得区分 所得税 住民税
長期譲渡所得(所有期間5年超) 15% 5%
短期譲渡所得(所有期間5年以下) 30% 9%
(3)株式譲渡に係る分離課税

計算方法

譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=譲渡所得

分離課税方式をとる株式等を譲渡した場合、まず上場株式と未公開株式等に区分し、それぞれ上記の計算式より譲渡所得額を算定します。その後、上場株式と未公開株式等ごとに、下記の該当税率を乗じて税額算定します。

株式譲渡に係る分離課税
区分 所得税 住民税
上場株式等の譲渡 証券会社等を通じた売却(H25.12.31まで) 7% 3%
証券会社等を通じた売却(H26.1.1以降) 15% 5%
上記以外の売却
上場株式等以外の譲渡 証券会社等を通じた売却
上記以外の売却

損益通算

所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得、一時所得、雑所得、山林所得、退職所得の10種類に分類され、各グループでそれぞれ所得計算を行います。
損益通算とは、2種類以上の所得があり各所得の中に黒字と赤字があるような場合に、その黒字と赤字を一定の順序にしたがって差引計算を行うことです。赤字が出た場合にほかの所得と損益通算できる所得は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得に限られます。

  1. 不動産所得の赤字のうち、次のような損失については、損益通算することができません。
    • a. 別荘など、生活に通常必要でない資産の貸し付けに係るもの
    • b. 土地などを取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額で一定のもの
    • c. 一定の組合契約に基づく事業から生じたもので、その組合の特定組合員に係るもの
  2. 株式等及び先物取引に係る譲渡による損失がある場合は、他の所得とは損益通算できません。また逆に、株式等の譲渡及び先物取引による所得以外の損失は、株式等の譲渡及び先物取引による所得と損益通算することができません。
  3. 土地、建物等の譲渡所得の計算上生じた損失については、土地建物等の譲渡以外の損失と損益通算することができません。また逆に土地建物等の譲渡以外の損失は、土地建物等の譲渡所得と損益通算することはできません。

居住用財産を譲渡した場合の特例

マイホームを売却し譲渡益が出る場合

自宅として居住されている土地や建物、もしくは以前居住していたが空家にしてから3年経過する年の12月31日までに土地や建物を売却した場合には、以下の特例を受けることができます。ただし、下記3を適用する場合には、1および2を適用することができません。ご注意ください。

  1. 居住用財産の譲渡所得の特別控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)
    [租税特別措置法35条]
  2. 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率の特例)
    [特別措置法31条の3]
  3. 特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(特定の居住用財産を売却した場合の買換えの特例)
    [租税特別措置法36条の2]
マイホームを売却し譲渡損が生じた場合

売却した年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えているマイホームを売却した場合、譲渡損失が生じても下記の1もしくは2が適用できれば、その譲渡損失をその年のほかの所得と損益通算することができます。
また、その年の申告において、ほかの所得と損益通算しきれなかった金額がある場合には、その年の翌年以後3年内の各年分の所得から、繰越控除することができます。ただし、合計所得金額が3,000万円を超える年は繰越控除することはできません。

  1. 居住用財産の買換え等の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
    [租税特別措置法41条の5]
  2. 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
    [租税特別措置法41条5の2]

特定の事業用資産の買替え等の特例

個人が事業用の特定の土地・建物を譲渡し、原則【*1】その譲渡をした日が属する年の12月31日までに買換資産を取得して、その取得から1年以内に事業用として使用する場合には、「特定事業用資産の買換え等の特例」を適用することができます。

【*1】
買換資産の法定取得期間は、譲渡年の前年、その譲渡年またはその譲渡年の翌年とされていますが、特定の要件を満たせば延長も可能です 「特定事業用資産の買換えの特例」を受ける場合の譲渡所得金額は、まず長期譲渡所得・短期譲渡所得に区分した後、以下のように計算します。
  1. 譲渡収入(A)≦買換資産の取得価額(B)の場合
    (A×0.2)-(譲渡資産の取得費(※)+譲渡費用)×0.2=譲渡所得
  2. 譲渡収入(A)>買換資産の取得価額(B)の場合
    {A-(B×0.8)}-(譲渡資産の取得費(※)+譲渡費用)×{A-(B×0.8)}÷A=譲渡所得

※概算取得費による計算も可能です。

上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

平成21年以後の各年分において、上場株式等を証券会社などを通じて売却したことにより生じた譲渡損失の金額は、確定申告を行うことにより、その年分の上場株式に係る配当所得の金額と損益通算することが出来ます。
また、損益通算してもなお控除しきれない譲渡損失の金額については、翌年以後3年間にわたり、確定申告により株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から繰越控除できます。

この特例の適用を受けるには、譲渡損失が生じた年分の所得税につき、「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」および「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を添付した確定申告書の提出が必要です。
また、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除を適用する際には、譲渡所得のあるなしにかかわらず、翌年以降も連続して確定申告書を提出してください。

土地等の長期譲渡所得の1,000万円特別控除制度

個人が、平成21,22年に取得した土地を譲渡した場合(所有期間5年超のものに限る)には、その年中の譲渡所得につき1,000万円が控除されます。

土地等の長期譲渡所得の1,000万円特別控除制度

事業者が、平成21、22年に土地等を取得し、本特例の適用を受ける旨の届出書を提出している場合には、その取得の日を含む事業年度終了の日後10年以内に、所有する他の土地等を譲渡したときの譲渡益の8割(22年に取得した土地のみを本特例の適用対象とする場合には6割)相当額を限度として課税を繰り延べる(圧縮記帳)特例があります。

Q&A

譲渡所得に関して、当税理士事務所によく寄せられるご質問にお答えします。

1. 土地と建物の譲渡を考えているのですが、譲渡時にどのような税金がかかるのでしょうか?
譲渡により利益が出た場合には、譲渡所得に係る所得税・復興特別所得税・住民税・事業税(個人事業者の場合のみ)がかかります。また、売買契約に係る印紙税、抵当権抹消に係る登録免許税なども必要となります。
2. 土地と建物を売却しました。本年中に契約しましたが引渡しは来年となります。この場合の譲渡所得は、今年と来年どちらの年分の所得としたらよいのでしょうか?
資産の譲渡日は、原則として引渡日をいいます。しかし、契約の効力が発生した日に譲渡があったものとすることもできます。契約の効力発生日とは一般的には、契約締結日をいいます。
契約の効力発生日を譲渡日とするのであれば、本年度の所得となり、引渡日を譲渡日とするのであれば来年度の所得とすることができます。
3. 自宅の土地と建物の譲渡を考えています。売却金額は6,500万円であり、購入に5,000万円かかりました。この場合、3,000万円の特別控除【*1】が適用できれば、譲渡所得はOになるので、税金はかかりませんか?
  購入(平成3年) 売却(平成26年)
土地 2,000万円 5,000万円
建物(木造) 3,000万円 1,500万円

【*1】居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除(租税特別措置法35条)

建物には、年を経ることにより建物の価値が減少していくという、減価償却という概念があります。その減価償却費は、一定の計算方法により算定され、建物の取得費から控除されます。
今回の場合、建物購入から23年が経過しており、建物の減価償却費は、概算で1,900万円と算定されます。よって、計算方法は以下のようになり、譲渡所得が発生するため、税金もかかることになります。

計算方法

4. 夫婦で共有している自宅を譲渡した場合には、それぞれ3,000万円特別控除の適用が受けられるのでしょうか?
共有している家を譲渡した場合には、夫婦それぞれ「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」を適用することができます。ただし、土地のみ共有しているような場合、建物の所有者以外の方は、原則この特例を適用することができません。ご注意ください。
5. 自宅を取り壊し、土地だけを譲渡するような場合にも、3,000万円特別控除が適用できるのでしょうか?
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」は、原則として土地の譲渡には適用できないのですが、下記の要件をすべて満たしていれば適用することが可能になります。
適用要件
  1. 建物を取り壊した日から1年以内に譲渡契約が締結されたこと
  2. 居住しなくなった日から3年目となる年の12月31日までに売ること
  3. 建物を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その土地を貸付その他の用に供していないこと
6. マイホームの譲渡を考えています。所有者である本人が転勤などにより、妻子と離れて単身で生活している場合、3,000万円特別控除の特例は適用できますか?
転勤などの事情がなくなれば、妻子が住んでいる建物で一緒に生活するであろうと認められる場合には、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」を適用することができます。
7. マイホームの譲渡を考えています。土地の所有期間が10年超で、建物の所有期間が10年以下の場合、軽減税率の特例を適用することができますか?
土地または建物のいずれか一方が10年以下である場合には、「居住用財産を売却した場合の軽減税率の特例」を適用することはできません。建物を建替えた場合においても、所有期間を通算することはできませんので、ご注意ください。
8. マイホームの買替えを考えていますが、譲渡をした年中に買替えができそうにありません。このような場合にも買替えの特例は適用できるのでしょうか?
下記の2つの要件を満たせば、「特定の居住用財産を売却した場合の買替えの特例」を適用することができます。
適用要件
  1. 譲渡した年の翌年の12月31日までに買替えを行うこと
  2. 買替えた建物を購入した年の翌年の12月31日までに居住すること
9. 現在、店舗として所有している土地と建物を売却し、今より集客力の高いほかの場所に店舗を移したいと考えています。このような場合にも適用できる税務上の特例はありますか?
特定の事業用資産の買替えの特例の一つに「長期保有資産の買替え」というものがあります。これは所有期間が10年を超える土地等、建物、構築物などから、国内にある土地等、建物、構築物や機械、装置へ買替えをする場合に、特例を適用することができるというものです。 詳細については、当税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。
10. ゴルフ会員権の譲渡をしようと考えているのですが、譲渡価額が取得価格より低いため、かなりの赤字が出てしまいます。このような場合、ほかの所得と通算することができますか?
平成26年3月31日までに行ったゴルフ会員権の譲渡により譲渡損失が生じた場合には、給与所得などと損益通算することができます。ただし、ゴルフ場を経営している会社が倒産したような場合、プレー権はもはや存在しないので、会員権の譲渡ではなく預託金の返還請求権の譲渡となります。つまり、家事上の損失とされるため、ほかの所得と損益通算することはできません。
平成26年4月1日以後に行ったゴルフ会員権の譲渡により生じた損失は、原則として、給与所得など他の所得と損益通算することはできません。
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